エルメス(Hermes)の「屋根の上の庭(Un Jardin Sur Le Toit)」のレビューです。
庭シリーズの最新作として、2011年4月に発売されてから2年半がたちましたが、その斬新さは色あせず。
またそのシンプルな香りは引き算のフレグランスとしては最高レベルであります。
誰でも作れそうで誰にも真似できない、
ジャン・クロード・エレナ(Jean-Claude Ellena)氏の孤高の傑作として私の中では位置づけております。
このフレグランスのポイントは3つ。
1.とてもシンプルな香り
エルメスと言えばどちらかというとミニマルなコレクションの印象がありますが、
比較的万人受けするような、さほど複雑でない、
顧客に理解されやすいものづくりは必須かと思われます。
「屋根の上の庭」がすごいのは、可能な限り上質な素材を使い、
それでいて極力シンプルに仕上げたこと。
ユーザーが香りをかいで、「ああ、庭だな」とすぐわかる。
かつ、その香りを気に入ってもらう。
その両立をやってのけた香りです。
2.庭を思わせる、庭でない香り
アップル、梨、バラ、バジル、マグノリアがメインです。
バラやマグノリア、バジルなどは庭の一部にありそうな気もしますが、
安易にグリーンやハーブなどのコードで主張をしないところがエレナ氏の流儀かと。
なお、そうは言っても芝生や堆肥の香りも含まれています。
ラストに進むにつれ、苦みなんかも感じるようになるこの「屋根の上の庭」。
この香料の組み合わせをもって、結構リアルに「庭」感を出しているところがすごいですね。
3.「グリーン系」の代表格を狙った香り
「屋根の上の庭」は、ザ・グリーン系の香りです。
これまでグリーン系と言えば、古くはシャネル(chanel)のフローラルグリーンの古典「19番(No.19)」、
あとは廃盤となったジバンシィ(Givenchy)の「グリナジィ(Greenergy)」あたりが最も有名で近いでしょう。
シャネル(chanel)「19番(No.19)」
ジバンシィ(Givenchy)「グリナジィ(Greenergy)」
また広義のグリーン系としては緑茶の香りをモチーフとしたエリザベスアーデン(Elizabeth Arden)の「グリーンティ(Green Tea)」や、
破竹の香りをうたった資生堂の「シセイドウメン(Shiseido Men)」などが挙げられます。
エリザベスアーデン(Elizabeth Arden)「グリーンティ(Green Tea)」
資生堂「シセイドウメン(Shiseido Men)」
ただ、ここ最近の状況として、いわゆるグリーン系の香水の、有名どころのリリースはあまり見られなかったんですね。
なので新たなグリーン系の代表になるような作品がありませんでした。
もしかすると純粋なグリーン系ってあまり売れないのかもしれません。
実験的に、サマーシーズン向けのフランカーなどはたまに見るぐらい。
そんな状況がありながら、ここに来てエルメスからまさかのグリーン系だったわけです。
しかもグリーティとかバンブーがモチーフではない、
芝生とか堆肥とかをイメージした純粋なグリーン系。
近年あまりグリーン系の香りがリリースされておらず、
代表格になるような作品もないことから、
むしろエルメスやエレナ氏は、グリーン系で行こうと決めたのかもしれません。
この虚をついた感じというか、
市場の穴をみつけて商品を投下してくる彼らの鋭さを、
私はこの「屋根の上の庭」から感じてしまいます。
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